2016年のわたしに今のAIを渡したら、たぶん何も身につかなかった話
AIはツールであってただの手段
「当時AIがあったら、もっと楽に勉強できたのに」と思ったことがある人、正直に手を挙げてほしい。
わたしは挙げかけて、ちょっと止まった。
2016年の秋、グロービスという大学院でファイナンスの授業を受けていた。数字が苦手な人間が、なぜか複利計算とNPVを学ぶという、ドラえもんで言えばのびたがひみつ道具を持っても使い方が分からなくて結局ジャイアンに取られるやつみたいな状況だった。
その授業で先生がいきなり言ったのが「あなたのグループは今日Excelで計算するのをやめなさい」という話だった。
「は?」と思った。授業でExcelを使わせないのか、と。「どう考えても便利なのに」とわたしは思っていたのだけど、先生の言いたかったことはこういうことだった。
Excelに数字を入れたら答えは出る。でもそれは「答えが出た」だけであって、「なぜその答えになるのかが分かった」ではない。理論の階段を1段ずつ登らずに、いきなりエスカレーターで上に行こうとすると、停電した瞬間に詰む。
だからわたしはその授業期間中、あえてiPhoneの電卓アプリを使って、手計算でNPVや現在価値の計算を延々とやっていた。電卓のボタンを押しながら「ここで割り引くのか」「この金利がここに効いてくるのか」と、1個ずつ確認していった。ものすごく地味だし、時間がかかる。隣のグループはサクサクExcelで終わらせていて、「わたし、何やってんだろ」と思った。こういうところだぞ。
今のAIに当時の問題を投げれば、答えは3秒で出る。しかも途中式まで説明してくれる。正直うらやましすぎて発狂しそうな話だ。
ちなみにわたしは今、かなりAIを日常的に使っている。仕事の文章、調査、数字の集計、ときにはただの壁打ち相手として。そういう生活をしていると、「2016年のあのめんどくさい手計算の意味って何だったんだ」という問いが浮かんでくる。
しかし、ちょっと待て。
ファイナンスで面白いのは、答えを出すのが目的ではなく、「前提を何にするか」が勝負の全てだというところだ。
授業で教わったのは、「前提条件の設定によって、経営陣の意思決定が180度変わってしまう」という話だった。金利をどう置くか、成長率をどう見るか、リスクをどう数値化するか。そこの判断1つで、まったく逆の結論が出る。そしてそれが会社の運命を決める。
AIに「このプロジェクトのNPVを計算して」と頼めば、出力は完璧だ。でもそこに入れる前提の数字が間違っていたら? あるいは状況が変わって前提を差し替えなきゃいけなくなったとき、どこを変えれば何が変わるのかが分からなかったら?
答えを出してくれるツールを使うためには、問いを正しく立てる人間が必要だ。HUNTER×HUNTERの念能力に近い話で、基礎がある人が使うと凶悪な武器になるが、基礎のない人が使っても大したことにならない。というか基礎のない人には念自体が習得できないんだった。そういう話である。
2016年のわたしがもしAIを持っていたら、たぶん全部任せていた。「すごい、答え出た!」と思って、理論の階段を1段も登らずにいた。
でも今思うと、あの地味な手計算の時間に、ちゃんとわたしは「なぜこうなるのか」を体に刻んでいた。その後のExcelが嘘みたいに楽だった。営業チームに集金の話をロジックで伝えられたのも、値引き交渉の場で数字で話ができたのも、全部あの地味な時間の積み上げだった。
今のわたしがAIを道具として使えているとすれば、それはあのめんどくさい手計算があったからかもしれない、と少しだけ思っている。
AIは「答えを出す速さ」を圧倒的に上げてくれる。でもその答えに「問いを立てる」のは、今もわたし自身だ。
そういえば、最近開催されたClaude Codeのハッカソン、上位5位のうちエンジニアはたった1人だったとのこと。結局その分野を心底深く考えられている人が、その分野の課題を解決できるってこと。コーディングはそのための手段だっただけ。
2016年のわたしに今のAIを渡しても、たぶん何も身につかなかった。むしろ今のわたしが2016年の経験を持っているから、AIがちゃんと武器になっている気がする。
それに気づいたら、あの手計算の時間が、少しだけ誇らしくなった。
このSubstackでは、AI時代の発信・ニュースレター運営・個人メディアづくりの試行錯誤を残しています。気になる方は、無料で登録しておいてください。
毎週の深掘り版は、こちらのニュースレターで配信しています。→『週刊 今日から始めるAI生活』
余談
この記事のネタ、実はObsidianというツールでメモ管理をしてて、当時の授業中のメモや気付きを引き出して記事の下書きにしてもらいました。正直1年前にObsidianを使って一度挫折を経験したけど、最近もう一度真剣に向き合えて本当に良かったと思う
なぜか?
この記事に熱く書きましたので、良かったらぜひ
🔗Obsidianを2度諦めた私が、『AIに渡すだけ!ずっと使える「自分専用ナレッジ」スタータキット』を手に入れ1年越しに再起した話





テツメモさん、いつも僕の思考を刺激する記事をありがとうございます。AIの活用により便利になるほど人間の思考力は低下していきそうですね。もっと昔からAIがあればなぁと思う反面、AIがなかったおかげで今こうしてAIを有効活用できる能力が身に付けられていると思うと、不便だった過去に感謝できますね🥳